「婚活が怖い」30代へ。
動けない自分の構造を、コートから書きました
アプリを開いた。プロフィールを書きかけた。最後の「登録する」が、押せない。
その夜、何度もスマホをロックして、何度もまた開いて、結局そのまま画面を閉じた——。
「婚活が怖い」と検索したことのある30代の方に、コートから一通、書きます。

「婚活って、なんでこんなに怖いんでしょう」と、ある女性に聞かれたことがあります。35歳。アプリは3回入れて3回消した。相談所は資料を取り寄せたけど、申し込みボタンが押せなかった。「全部、自分が悪いんですよね?」と、最後に申し訳なさそうに言いました。
30年テニスを教えてきたあつしコーチです。教え子から30組以上が結婚していくのを、コートの脇で見てきました。その中には、結婚する前に「動けない時期」を長く過ごしていた方が、たくさんいました。
このコラムは、動けない自分が悪いと思っている人に向けて書いています。先に結論だけ書きます。あなたの動けなさは、勇気の問題ではない可能性が高いです。身体の側で起きていることを、まず分解してみましょう。
1. 「婚活が怖い」と感じる自分は、弱いわけじゃない
「婚活が怖い」と検索する人の多くが、最初に出会う言葉は、「勇気を出そう」「一歩踏み出そう」「準備100%を待たないで」です。気持ちは分かる。でも、その言葉で動けるなら、あなたはもう動いています。
動けない時に「動こう」と言われても、動けません。そのループに入ると、人は「動けない自分は、よほど弱いんだ」と結論づけ始めます。これがいちばん危険です。
「コートでも同じです。サーブを打てない人に『打ちなさい』と言ったって、もっと打てなくなる。打てない理由を一緒にほどいてあげないと、動けません」— あつしコーチ
「婚活が怖い」は、勇気の量の問題ではない。もっと別の話です。
2. 動けない状態を、3つの層に分けて見る

動けないのは「気持ち」だけの問題ではありません。3つの層が同時に動かなくなっているからです。本記事の監修者である R が、恋愛コーチングの現場で何度も使ってきた整理を、簡単に書きます。
① 思考の層:頭の中の声
「断られたらどうしよう」「年齢で弾かれる」「自分なんかを選ぶ人いるの」——頭の中で、批判の声がずっと鳴っている状態。これは思考の層です。
厄介なのは、この声が「正しい分析」のフリをしてくることです。「現実を見てるだけ」「冷静なだけ」と。でも、これは冷静さではなくて、動かないための材料を集めている脳の働きです。
② 感情の層:胸のあたりの重さ
思考のひとつ下に、感情の層があります。胸のあたりが重い、息が浅い、肩が上がっている。婚活アプリを開こうとした瞬間、身体に出てくる感覚があるはずです。
これは「怖さの本体」です。思考は後づけで、本当は感情の側から動けなくなっている。だから、頭で「大丈夫」と言い聞かせても、感情が動かないと、身体は動きません。
③ 身体の層:神経系の警戒モード
そして、いちばん下の層に身体があります。呼吸が浅い・心拍が上がる・手が冷える・胃のあたりが固い。これは「不安だから」起きているのではなく、神経系が「危険」と判定しているから起きています。
この身体の状態のままでは、思考も感情も整いません。「動けない人に動けと言っても動けない」のは、身体の警戒モードを外さないまま、上の層に働きかけているからです。
動けない時に必要なのは、「勇気を出そう」と思考に働きかけることではなく、身体の側から警戒モードを外していくこと。これだけで、上の2層は少しずつ動き始めます。
3. なぜ脳は「婚活」を危険と判定するのか

「身体が警戒モードに入っている」と書きました。じゃあ、なぜ婚活で、こんなに身体が警戒するのでしょう。
脳には扁桃体という、危険を察知する部分があります。これは進化の中で、「目の前のものが安全か危険か」を一瞬で判定するために発達してきた、とても古い部位です。頭で考えるより先に、身体が反応するのは、この扁桃体の働きです。
扁桃体が「危険」と判定しやすいのは、次のようなものです。
- 過去に痛い思いをした記憶と似た状況——以前のアプリで言われた一言、過去の交際の別れ際、お見合いで気まずかった沈黙
- 「拒絶される可能性」のある場面——人類の進化的に、集団から排除されることは生存に直結していた
- 「自分の価値が査定される」状況——プロフィール、年齢、年収、見た目、すべて
婚活は、この3つを同時に踏みにいく場所です。過去の痛みの記憶、拒絶の可能性、価値の査定。扁桃体からすれば「危険なものだらけの場所」。身体が警戒モードに入るのは、脳が正常に働いている証拠です。
「『婚活が怖い』は、あなたが弱いんじゃなくて、脳がちゃんと仕事をしている、ということなんです。これを知っているだけで、自分を責める量が、すこし減ります」— あつしコーチ
怖さを「ない」ことにはしません。怖さを「変なもの」と思わなくていい、というのが今日の話です。
4. 30代になると、動けなさが増す3つの理由
「20代の頃は、もうちょっと動けた気がする」と話してくれた方も多いです。30代になると、なぜか動けなさが増す。これにも、いくつか理由があります。
理由① 自己像が固まり始める
30代に入ると、自分の「得意・不得意」「キャラ」「人生のテンポ」が、自分の中ではっきりしてきます。これ自体は悪いことではありません。問題は、「自分はこういう人」という枠が、変わることへの抵抗を強くすることです。
「いまさら新しいことを始める自分」「初対面で緊張する自分」を見せるのが、20代の頃より重く感じる。自己像が壊れることへの怖さが、上に乗ってきます。
理由② 時間の感覚が早回しになる
30代後半に近づくと、1年があっという間に過ぎる感覚が強くなります。「次の1年で結果を出さなきゃ」と思うのに、その1年が短く感じる。焦りの音が、身体の中で鳴り続けます。
この焦りは、身体の側では「警戒モードがずっと続いている」状態です。焦っている時ほど、動けません。これは脳の働きとして、ほぼ確実にそうなります。
理由③ 比較する相手が、増えてくる
30代になると、結婚した同期、子どものいる友人、SNSの幸せ報告——比較する材料が、勝手に視界に入ってくるようになります。20代の頃は、まだ「みんな同じくらいバラバラ」でした。30代では、その隊列がはっきり分かれます。
比較は、扁桃体にとっては「自分の位置が下がっている」というシグナルになります。位置が下がる感覚は、脳にとっては「危険」。動けなさが増すのは、ある意味で当然の身体反応です。
5. コーチが30年見てきた、動けなかった人が動き出す瞬間
CASE 1(34歳・女性/3年間、何もしなかった人)
以前、サークルに来てくれた、Sさん(当時34歳・女性)の話。本人の許可を得て、少しだけ書きます。
Sさんは、30歳の時に長く付き合った人と別れて、それから3年間、本当に何もしませんでした。アプリは入れては消し、相談所の資料は本棚の奥に積まれたまま。「動こうと思った瞬間に、身体が固まるんです」と言っていました。
Sさんが最初にコートに来た日、ラケットの握り方も覚束なくて、サーブは10回中9回ネットでした。でも、その日の帰り際に「久しぶりに、息が深く吸えた気がする」と笑って言ってくれたのを、いまでも覚えています。
3ヶ月通って、Sさんは「あ、また人と話せる気がする」と言いました。結婚したかどうか、ここには書きません。「動けない自分が、動ける場所が一つある」と分かったところまでが、彼女の物語でした。その後の選択は、彼女のものです。
30年見てきての印象は、「動けなかった人ほど、いきなり大きく動こうとして失敗する」ということです。3年動けなかった人が、いきなり相談所に入って、お見合いを20回連続でやろうとする。当然、半年で再び動けなくなります。
動けなかった人が動き出す時、いちばん最初に必要なのは、「大きな一歩」ではなく「身体が安心できる小さな場所」です。テニスのコートでも、街角のカフェでも、なんでもいい。「ここなら息ができる」と身体が判定する場所を、一つだけ持つ。それが入り口です。
6. 一歩を出す前に、身体の側から整える3つの練習

動けない時に、「動こう」と思考に働きかけるのではなく、身体の側から警戒モードを外す。R が現場で実際に使っていたメソッドから、シンプルな3つを紹介します。
練習① 4秒吸って、8秒吐く呼吸(迷走神経のスイッチ)
これは A 記事でも書いたメソッドですが、「婚活が怖い」状態の人にこそ、いちばん効くものなので、もう一度書きます。
鼻から4秒で吸って、口から8秒で吐く。これを5回ひと組として、朝・昼・寝る前にやる。たった3分です。
吐く時間を吸う時間より長くすると、副交感神経が優位になり、身体が「安全モード」に切り替わり始めます。これは Polyvagal Theory(Stephen W. Porges)として知られる神経系の働きで、脳科学的にもよく研究されている領域です。
3週間続けると、アプリを開いた時の身体の反応が、すこし違ってきます。「同じ画面を見ても、息が止まらなくなった」と気づく瞬間が、必ずきます。
練習② 自分が「息ができる場所」を1つだけ書き出す
紙とペンを用意して、「ここにいると、息が深く吸える」と感じる場所を、1つだけ書き出してください。10個じゃなくて、1個でいいです。
カフェの窓際の席かもしれない。実家の自分の部屋かもしれない。図書館の地下かもしれない。ランニングコースの折り返し地点かもしれない。「身体が安心している瞬間」が、必ず1つはあるはずです。
書けたら、これからの1ヶ月、その場所に意識して通う。それだけ。婚活のことは、その間は考えなくていい。「身体が安心する場所が、自分にはある」という感覚を、まず取り戻す練習です。
練習③ いきなり「向かい合う場」に出ない
動けない時の最大の罠は、いきなり「向かい合う場」に出ようとすることです。お見合い、パーティー、相席系のお店。テーブルを挟んで目を合わせる場所は、扁桃体にとっては「査定の場」で、警戒モードがいきなり最大になります。
動けない人ほど、最初は「向かい合わない場」から始める方が、たぶん身体には優しい。次の項で書きます。
7. 「向かい合う婚活」が怖いなら、横並びの場から始めていい

ここで、本記事の監修者である R が、現場で繰り返し伝えてきた話を、ひとつ。
「向かい合う」のと「横並び」では、扁桃体への負荷がまったく違います。
向かい合うと、目を見ないといけない気がする。見続けるのは気恥ずかしい。目を伏せると「悪いかな」と気を遣う。結局、ずっと緊張している。これは、誰でもそうです。婚活パーティの3分自己紹介で疲れるのは、性格の問題ではありません。
一方、横並びはぜんぜん違います。バーのカウンターを思い浮かべてください。同じ方向を向いて、隣に座っている。顔を見たいときだけ横を向ければいい。それ以外の時間は、グラスや、目の前のボトルを見ていればいい。「見続けなくていい」のに「一緒にいる」。
公園のベンチも同じです。並んで座って、空を眺める。沈黙が気にならない。でも、相手の息遣いや雰囲気は、確かに伝わってくる。
30年テニスを教えてきて思うのは、テニスのダブルスは、この「横並び」が2時間続く場だということです。ペアでコートの同じ側に立つ。同じ方向を向いて、ボールを見ている。目を合わせるのは、ポイントが取れた瞬間に「ナイス」と笑い合う、ほんの一瞬だけ。あとは横並び。これが2時間続きます。
「向かい合う婚活が怖い」と感じている人にとっては、たぶん、いきなり相談所のお見合いより、横並びの場で人と過ごす方が、身体が安心する。これはコーチング現場でも、コートでも、何度も見てきた感覚です。
「動けない人ほど、入り口を選んでいいんです。向かい合う場が怖いなら、横並びから始める。それで動けるなら、それで十分なんですよ」— あつしコーチ
CASE 2(38歳・男性/お見合いがすべて怖かった人)
もう一人、Mさん(当時38歳・男性)の話を。
Mさんは、結婚相談所に2年所属していて、お見合いを13回受けて、その全部の前夜に「行きたくない」と感じていた、と話してくれました。「お見合いの場の、向かい合った瞬間の沈黙が、いちばん怖い」。それでも、Mさんは「自分が弱いだけ」と思って、無理して通っていました。
あるとき、Mさんは相談所を退会して、その代わりに、職場近くのテニススクールに通い始めました。婚活目的ではなく、純粋に「身体を動かしたいから」と。
半年後、Mさんが言ったのは、こうでした。「ペアで2時間並んでるだけなのに、何人かと、普通に話せるようになっていました」。お見合いで2年動けなかったことが、コートでは半年で解けた。
Mさんはまだ結婚していません。でも、人と話すことを、もう怖がってはいません。それで、十分だと、私は思っています。
8. 動けない今日のあなたへ、温度のある場所を一つだけ
長く書きました。最後にひとつだけ。
今日は、何も決めなくていいです。アプリの登録も、相談所の申し込みも、サークルの参加も、決めなくていい。
明日の朝、もし少し息が吸えそうなら、4秒吸って、8秒吐く呼吸を5回。それだけ。それで、今日の練習は終わりです。
そして、自分が「息ができる場所」を、頭の中で1つだけ思い浮かべてください。そこに、来週いつか、もう一度行ってみる。それだけで、十分に動いています。
動けない時間が長かった人ほど、「動かなかったこと」を責めなくていいです。動けなかった時間にも、たぶん意味があった。3年止まっていた人が、3ヶ月後にコートで笑っていた姿を、私は何回も見ています。
もし、いつか「横並びの場でなら、人と過ごせる気がする」と感じる日がきたら、私たちは、月に1回、品川で開いています。第1期は2026年8月22日(土)から。来ても、来なくても、それは構いません。「そういう場所が、東京の片隅にあるらしい」と、頭の隅に置いてもらえれば、それで十分です。
「動けない自分を、責めないでください。動けない理由が、ちゃんとあります。30年見てきて、それははっきり言えます」— あつしコーチ
あなたが今夜、深く息が吸えますように。
東京・品川で、月1テニス。
1回目は半額で試せます
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テニス指導歴30年・独立プロコーチ。教え子から30組以上の成婚を見届けてきた現場の観察を基に、Love All Tennis のコラムを綴っています。